クリエイターとして国内外で活躍していた佐藤さんが犬山に移り住んだのは2011年。名古屋の劇場が閉館される際、処分予定の緞帳を引き取り、その引き受け手になってくれたのが犬山の美術館でした。「現地に足を運ぶ中で自然の豊かさに惚れ込み、思い切って家族で犬山へ移住しました。翌年に、清水寺の境内で農業職業訓練校を開校し、多様な里山文化を伝承する活動に励んでいます」。田畑で行う有機栽培の先生は近所のおじいちゃんやおばあちゃん。「『さといもはアルカリ土壌が必要だからあの里山の土を使いな』とか『トマトはネギと植えれば虫が来ないよ』とか。犬山の人々には、最新の科学に負けない知恵や技術が脈々と受け継がれているんです。そういうこともしっかり伝えていかなくてはと感じますね」。これまでに約100名が訓練校を卒業。彼らが手掛ける、農薬や化学肥料を一切使わず手間暇かけて育てられた作物は、安全な上、味が濃くて美味しいと評判になり、犬山の多くの旅館や料理店で供されています。
『ハーブ蒸留』
季節のハーブを使って、ルームスプレーやアロマオイル、バスソルト、虫よけスプレーなどをつくります。お寺中に漂うハーブの香りに癒されながらリラックス&リフレッシュ。
佐藤さんがめざすのは、自然や人とつながりながら地に根づいて暮らすこと。自分で田畑を耕し、電力は太陽光発電で賄う。そんな暮らし方に訓練校の生徒をはじめ多くの仲間が賛同し、オーガニックビレッジというコミュニティを形成。加工食品や手しごとのワークショップなど、様々な活動を展開しています。「たとえばハーブ蒸留は、畑での収穫から行います。自分の作るものがどんな場所で育ち、どんな花が咲くのかを知ると、植物に対する感謝の気持ちや愛着がいっそう湧いてきます。自然の恵みを日々の生活に取り入れる愉しさや尊さを感じてもらえたら嬉しいですね」。そして、こうした里山での暮らしは、佐藤さんに大きな安心感をもたらしたと言います。「食べ物やエネルギーを自給自足したり、里山のみんなで農作業や子育てを助け合ったり。限られたインフラやお金に頼らなくても、豊かに暮らせるから不安がない。だから自分の人生をより自由に、自然体で考えられるようになりました」。
一方で、佐藤さんは犬山をグローバルな視点で見つめ直し、失われつつある文化を守ったり、未知の資源から新しい価値を生み出す取り組みも進めています。「こちらに来てまず直面したのが、木曽川鵜飼の深刻な後継者不足でした。鵜飼と言えば、木曽川で1300年もの歴史を誇る素晴らしい伝統文化。絶やすことなく未来に伝えなくてはと、船頭技術を仲間と学び、今は実際に船頭をしているんですよ」。また事務所のある清水寺で、外国人留学生を対象とした英語ヨガもスタート。「犬山は外国人観光客や留学生も多い町。地元や観光客の方と彼らをつなぐ場をつくり、お互いの文化を伝い合えたら素敵ですよね」。そもそも犬山農芸が拠点を置く善師野はその昔、龍を鎮めるために修行僧が集まったとされる地。「すぐ裏の里山にも龍神様が祀られているんですが、そうした伝説も時代と共に忘れられ、長年手入れされずに荒れ果てていて。そこで里山を整備し、龍神祭を復活させようと計画中です」。外から来た佐藤さんだからこそ気づく犬山の魅力の数々。懐かしくて新しい、そんな体験が今後ますます増えていきそうです。
1400年の歴史を持つ清水寺で、犬山に留学している外国人留学生を対象とし、英語で行われるヨガ「ZEN MASTER ORGANIC」。インドでヨガを学んだ中谷先生が、犬山と世界を繋ぐ架け橋となりたい、という想いからスタート。